茶道のことばのうち、〈一期一会(いちごいちえ)〉は比較的よく知られていますが、もうひとつ、〈一座建立(いちざこんりゅう)〉という重要なことばがあります。
亭主と客の協力によって茶席がより高い完成度に至る、というような意味です。
茶席において、客をもてなすのは亭主です。亭主は客に居心地よく過ごしていただくことを望んでいます。しかし、客はただもてなされているだけではありません。客もまた能動的に場作りに参加することで、その場はよりここち良い場になるのです。
ですから、茶道の世界にはパワハラもセクハラもモンスターカスタマーも存在しません。
この考え方は、茶室の中にのみ存在するものではありません。親と子、先生と生徒、上司と部下、店員と買い物客、総理大臣と大統領、運転手と運転手、他人と他人、あなたと私……、ありとあらゆる人と人との関係に当てはめることができるのではないでしょうか。
せまい道で人とすれ違うとき、お互いがぶつからないように気を使い合う。このような小さな〈一座建立〉は、社会のいたるところに存在します。居心地の良い社会にするために、〈一座建立〉の気持ちを忘れないようにしたいものです。